SNSを活用する企業にとって、ブランドの信頼性やフォロワーとの関係性は最も大切な資産の一つです。しかしその資産を狙う脅威が、年々巧妙さを増しています。フィッシング対策協議会の報告によると、2024年のフィッシング報告件数は171万8,036件と過去最高を記録しました。SNS上でも、企業アカウントのログイン情報を狙ったフィッシングや、企業のブランドを悪用した偽アカウントによる詐欺が相次いでいます。
こうした攻撃は、企業そのものに被害をもたらすだけでなく、企業を「踏み台」として第三者に被害を拡大させる点に特徴があります。企業がフィッシング詐欺に向き合う際、見落としがちな視点があります。それは、企業は「被害者」になるだけでなく、「加害者(の道具)」にもなりうるという点です。
たとえば、自社のアカウントが乗っ取られてフォロワーに詐欺DMが送られるケースや、自社ブランドを模倣した偽アカウントによってユーザーが騙されるケースが挙げられます。どちらも、最終的にはブランドの信頼が毀損されるという点で共通しています。
この記事では、この「被害者にも加害者にもならない」という両面から、企業が取るべきフィッシング詐欺対策を具体的に解説します。
フィッシング詐欺とは?SNSで増えるその手口
フィッシング詐欺の基本的な仕組み
フィッシング詐欺とは、実在する企業やサービスを装って偽のメッセージを送り、ログイン情報や個人情報、クレジットカード情報などを入力させて盗み取る手口の総称です。語源は「fishing(釣り)」から来ており、「餌」で騙してユーザーの情報を「釣り上げる」イメージです。
SNSにおけるフィッシング詐欺は、主に以下のような流れで行われます。
まず、攻撃者がSNSプラットフォームの公式通知を装ったメールやDMを送ります。「アカウントに不審なログインがありました」「著作権違反の申し立てがあります」「認証バッジの申請が承認されました」といった、受け手が思わず反応してしまう内容です。メッセージにはリンクが含まれており、クリックすると本物そっくりの偽ログインページに誘導されます。そこでID・パスワードを入力した瞬間、情報は攻撃者の手に渡り、アカウントが乗っ取られます。
「見分けがつかない」レベルに進化している
かつてのフィッシングメールは、日本語が不自然だったり、デザインが粗雑だったりと、「怪しい」と気づけるポイントが多くありました。しかし、生成AIの普及により、この状況は大きく変わっています。
現在のフィッシングメールは、文法的に自然な日本語で書かれ、送信元のメールアドレスも巧妙に偽装されています。リンク先の偽ログインページも、本物のプラットフォームと見分けがつかないほど精巧に作られています。「怪しいメールは見ればわかる」という前提は、もはや通用しません。
さらに、「リアルタイムフィッシング」と呼ばれる高度な手口では、2段階認証すら突破されるケースが報告されています。攻撃者が偽サイト上でリアルタイムにログイン情報を窃取しながら、裏で正規サイトへのログインを同時に行い、SMS認証のコードまで盗み取るのです。
SNSで企業が遭遇するフィッシングと、その周辺の脅威
企業アカウントに対するSNS上の攻撃は、大きく分けて「フィッシング詐欺」と「なりすまし(偽アカウント)」の2つに分類できます。厳密には異なる手口ですが、どちらも最終的にはユーザーの情報を詐取し、ブランドの信頼を毀損するという点で共通しており、対策もセットで考える必要があるため、この記事ではあわせて解説します。
フィッシング詐欺:企業の担当者が「騙される」リスク
パターン1:プラットフォームを装った偽通知
「アカウントが制限されます」「規約違反が報告されました」といった内容で、偽のログインページに誘導するパターンです。InstagramやFacebookでは、「認証バッジの付与」を餌にするケースも確認されています。企業アカウントの担当者は、「公式アカウントとしての信頼性を守りたい」という心理から、こうした通知に反応しやすい傾向があります。
パターン2:取引先やパートナーを装ったDM
インフルエンサーやメディアからの「コラボ依頼」「取材依頼」を装ったDMで、添付ファイルの開封やリンクのクリックを促すパターンです。企業のSNS担当者にとって、こうした連絡は日常的に届くものであるため、警戒心が下がりやすいのが特徴です。
なりすまし:企業のブランドが「利用される」リスク
パターン3:フォロワーを狙った偽キャンペーン
自社のブランドやアカウントを模倣した偽アカウントが作成され、「当選おめでとうございます」「プレゼント企画に応募しませんか」といったDMをフォロワーに送りつけるパターンです。これはフィッシング詐欺とは異なり、攻撃者が企業を直接攻撃するのではなく、企業のブランドを「道具」として悪用するものです。直接の攻撃対象はフォロワーですが、ブランドイメージの毀損という形で企業にも大きなダメージが及びます。
なぜ企業が狙われる?SNS詐欺の背景にある構造
フォロワーからの信頼が、そのまま攻撃に利用される
企業のSNSアカウントが攻撃者に狙われる最大の理由は、フォロワーとの信頼関係をそのまま悪用できる点にあります。
何千、何万というフォロワーを持つ企業アカウントが乗っ取られた場合、そのアカウントから送られるDMやコメントは、フォロワーにとって「信頼している企業からの連絡」に見えます。「いつもフォローしているブランドだから大丈夫だろう」という心理から、警戒心を持たずにリンクをクリックしたり、個人情報を入力したりしてしまうのです。
つまり、企業がSNS上で長い時間をかけて築いてきた信頼が大きいほど、乗っ取り後にフォロワーが受ける被害も拡大しやすいという構造があります。攻撃者にとって企業アカウントは、個人アカウントとは比較にならない「効率のよい攻撃手段」なのです。
コメント欄やDMという「入口」の存在
SNSの構造上、企業アカウントにはコメント欄やDMという「外部からアクセスできる入口」が開かれています。
攻撃者はこの入口を利用して、企業アカウントの担当者に直接アプローチします。たとえば、コメント欄に「あなたのアカウントが不正利用されているようです。こちらで確認してください」というメッセージを残す手口や、DMで「Instagramのポリシー変更に伴い、認証が必要です」と偽の通知を送る手口です。
私たちがSNS運用代行サービスで管理しているアカウントでも、こうしたフィッシングの試みは日常的に届きます。多い時には週に数件のペースで、公式を装った偽メッセージが来ることもあります。
「公式感」が逆にリスクになるケース
興味深いのは、企業アカウントの「公式感」(統一されたビジュアル、丁寧な対応、定期的な投稿)が、なりすましの精度を高めてしまうケースがあるという点です。
攻撃者は、企業の公式アカウントのプロフィール画像、カバー写真、投稿のトーンを忠実にコピーして偽アカウントを作成します。元の公式アカウントが整然と運用されているほど、偽アカウントのクオリティも上がり、ユーザーが見分けにくくなるのです。過去には、有名企業70社以上の偽アカウントが一斉に作成され、偽キャンペーンでユーザーの個人情報が詐取される大規模な被害も報告されています。
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「騙されない力」を組織に根付かせる
フィッシング対策の基盤となるのは、パスワード管理や2段階認証といった技術的な設定です。ここでは、技術的設定の上に積み上げるべき「騙されない力」に焦点を当てます。
フィッシングメッセージの見分け方を全員で共有する
SNS担当者だけでなく、アカウントのパスワードを知っている全ての人が、フィッシングの手口と見分け方を理解している必要があります。見分けるポイントは以下の通りです。
| チェックポイント | 確認方法 |
|---|---|
| 送信元のメールアドレス | 表示名ではなく、メールアドレスの「@」以降のドメインを確認する。正規と一文字違いのドメインに注意 |
| リンク先のURL | クリックする前に、リンクにカーソルを合わせて(スマートフォンの場合は長押しして)実際のURLを確認する。短縮URLは特に注意 |
| 緊急性を煽る文面 | 「24時間以内に対応しないとアカウントが停止されます」等の文面は、フィッシングの典型的な手口 |
| ログイン情報の入力要求 | 正規のプラットフォームが、メールやDM経由でログイン情報の入力を求めることはない |
| 日本語の不自然さ | 以前より精度は上がっているが、敬語の混在や不自然な句読点の位置には注意 |
ただし、先述の通り、生成AIの進化によりこれらの「見た目」での判別は年々難しくなっています。最も確実な対策は、メールやDMに含まれるリンクからは絶対にログインしないというルールを徹底することです。ログインが必要な場合は、必ずブラウザのアドレスバーにURLを直接入力するか、公式アプリから操作するようにしてください。
「訓練」でチームの感度を高める
ルールを知っていることと、実際に騙されないことは別の話です。知識だけでは、巧妙なフィッシングには対抗しきれません。
効果的な方法の一つが、フィッシング模擬訓練です。これは、社内で擬似的なフィッシングメールやDMを送り、担当者がそれに引っかかるかどうかをテストする訓練です。引っかかった場合はフィードバックを行い、見分けるポイントを改めて共有します。
大がかりなシステムがなくても、たとえば四半期ごとの研修の中で「このメールはフィッシングか、正規の通知か?」を判断するケーススタディを取り入れるだけでも、チームの感度は大きく向上します。
私たちが支援しているある小売企業では、SNS担当チーム向けに年2回のフィッシング判別ワークショップを実施しています。実際に過去に届いたフィッシングDMのスクリーンショットを使い、「どこが怪しいか」をチームで議論する形式です。導入後、担当者から「不審なDMに対する反応速度が明らかに上がった」との声をいただいています。
不審な動きに気づくためのモニタリング
フィッシング被害を早期に察知するためには、日常的なモニタリングも重要です。
具体的には、ログイン履歴の定期確認(見覚えのない端末や地域からのアクセスがないか)、フォロワー数やフォロワー属性の急激な変化(乗っ取り後に外国人フォロワーが急増するケースが報告されている)、アカウントに紐づくメールアドレスへの不審な通知(パスワード変更や設定変更の通知が身に覚えなく届いていないか)を定期的に確認する習慣をつけてください。
こうしたモニタリングの担当者と確認頻度を明確にしておくことで、異変の早期発見と迅速な対応が可能になります。
フォロワーも守る!被害を広げないための啓蒙方法
企業には「フォロワーを守る責任」がある
フィッシング対策を考える際、自社のアカウントを守ることだけに意識が向きがちですが、フォロワーを守ることも企業の責任です。
自社のブランドを騙った偽アカウントがフォロワーに詐欺DMを送っている状態を放置すれば、直接の責任は攻撃者にあるとしても、ユーザーから見れば「あの企業は対策してくれなかった」という印象が残ります。
私たちが2025年11月に実施したSNS利用実態調査(2,903名対象)では、InstagramやX(旧Twitter)で購入に最も影響を与えた情報として「フォローしているアカウントの投稿」がトップに挙がっています。これは裏を返せば、フォロワーが企業アカウントに寄せている信頼の大きさを示しています。その信頼を守ることは、長期的なブランド価値の維持に直結するのです。
偽アカウントを発見した時の対応フロー
自社のブランドを騙った偽アカウントを発見した場合(あるいはフォロワーから報告を受けた場合)、以下の手順で対応します。
偽アカウントのプロフィール、投稿内容、送信しているDMの内容(フォロワーから共有された場合)をスクリーンショットで保存します。URL、アカウントID、タイムスタンプも記録してください。
各SNSには、なりすましアカウントの通報機能があります。Instagram・Facebookは「報告」メニューから「なりすましアカウント」として通報、X(旧Twitter)は「報告」から「不正なアカウント」として通報できます。通報は一度だけでなく、削除されるまで定期的に行ってください。
自社の公式アカウントおよび公式サイトで、偽アカウントの存在と見分け方を周知します。「当社の公式アカウントは〇〇のみです。DMでログイン情報やクレジットカード番号をお聞きすることは一切ございません」といった明確な声明を出してください。
偽アカウントは一つ削除されても、別の名前で再び作成されることがあります。定期的に自社ブランド名で検索し、偽アカウントの有無を確認する習慣をつけてください。
「公式」であることを日頃から明示しておく
偽アカウントとの区別をユーザーが容易にできるよう、日頃から「これが公式です」というシグナルを発信しておくことも有効な予防策です。
認証バッジの取得: Instagram、X(旧Twitter)、Facebookでは、公式アカウントであることを示す認証バッジ(青いチェックマーク)を取得できます。取得には条件がありますが、可能であれば申請を検討してください。認証バッジがあるだけで、偽アカウントとの見分けが格段にしやすくなります。
公式サイトとの相互リンク: 自社のWebサイトに公式SNSアカウントの一覧を掲載し、各SNSのプロフィールにも公式サイトへのリンクを設置します。ユーザーが「これは本物だろうか」と迷った時に、公式サイトから確認できる導線を作っておくことが重要です。
定期的なアナウンス: 「当社の公式SNSアカウントは以下の通りです」「DMでパスワードやクレジットカード情報をお聞きすることはありません」といった注意喚起を、四半期に1回程度、公式アカウントから発信しておくと、フォロワーの意識を高める効果があります。
私たちの支援先で起きた「なりすまし」への対応
私たちがSNS運用を支援しているある美容系ブランドで、Instagramの偽アカウントが作成されたことがありました。偽アカウントは公式のプロフィール画像とほぼ同一のロゴを使い、「プレゼントキャンペーン当選」を装ったDMをフォロワーに送っていました。
フォロワーからの報告で発覚した後、すぐに証拠を保全し、Metaに通報。並行して公式アカウントのストーリーズとフィード投稿の両方で「偽アカウントにご注意ください」という注意喚起を行いました。偽アカウントの削除までには数日を要しましたが、注意喚起の投稿によりフォロワーからの被害報告はゼロに抑えることができました。
この経験から学んだのは、偽アカウントの「削除」を待つだけでなく、「注意喚起」を同時並行で行うことの重要性です。プラットフォームの対応は必ずしも迅速ではないため、自社でできる防御策(フォロワーへの情報提供)を即座に実行することが、被害拡大を防ぐ鍵になります。
まとめ:自社とフォロワーを守る「二重の盾」を持つ
SNS上のフィッシング詐欺は、もはや「知らなかった」では済まされない脅威です。手口は年々巧妙化し、生成AIの活用により「見破る」ことの難しさは増す一方です。
しかし、この記事で解説した対策を実行することで、リスクは大幅に軽減できます。自社のアカウントを守る「内側の盾」(技術的設定、フィッシング判別力の向上、モニタリング)と、フォロワーを守る「外側の盾」(偽アカウントへの対応、公式の明示、定期的な注意喚起)。この二重の盾を持つことが、フィッシング詐欺からブランドと顧客の両方を守る最善の戦略です。
まずは、SNS担当チーム全員で「メールやDMのリンクからは絶対にログインしない」というルールを今日から徹底するところから始めてみてください。たった一つのルールが、フィッシング被害の大部分を防いでくれます。
フィッシング詐欺やなりすましは、もはや避けて通れないリスクです。私たちは東証プライム上場グループの厳格なガバナンスと最新のAIリスク対策を融合させ、貴社が安心してファンとの絆を深められる「安全な場所」を提供し続けます。
✓AI生成の巧妙なフィッシングを見破る、最新の判別メソッドとチーム教育
✓2026年最新の脅威に対応した、なりすましアカウントの常時監視と即時通報体制
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